NHKラジオ「学びたいは終わらない」2003年11月6日
文章化「ほわいと☆らむ」さん


アナウンサー:"教育フェア"の特設会場から、"学びたいは終わらない"というテーマでお話をうかがっています。3日目の今日は歴史大河ギャグマンガ、『風雲児たち』を20年以上描きつづけていらっしゃる、漫画家のみなもと太郎さんです。

みなもと:みなもとです。よろしくお願いいたします。

アナウンサー:よろしくお願いします。簡単にプロフィールをご紹介いたしますと、みなもとさんは昭和22年、京都のお生まれで現在56歳。

みなもと:はい(苦笑)。

アナウンサー:20歳で漫画家デビュー。昭和45年に上京して、少年雑誌に連載を始める。昭和54年に『風雲児たち』の連載を始めて、以後20年にわたって描き続けていらっしゃると、途中休止もありますけれども、えー一昨年から『風雲児たち・幕末編』として連載を再開しております。復刻版として私の前にズラッと18巻揃ってるんですけれども、この後まだまだ続くというということになるわけですね。

みなもと:はい、そうですね。

アナウンサー:ずいぶん長く描かれてますねえ。

みなもと:こんなつもりはまったくなかったんですけどねえ。気がつけば24年かかって、やっとペリーが来てホッとしてますけれども(笑)。

アナウンサー:その『風雲児たち』、どんなストーリーなのかラジオの前のみなさんにちょっとご紹介いたしますと…。

みなもと:よろしくお願いします。

アナウンサー:元々の企画は、幕末に登場した坂本龍馬や西郷隆盛などの活躍をギャグを交えて活き活きと描くというものだと。

みなもと:はい。

アナウンサー:で、お話は天下分け目の関が原の戦いから始まるわけなんですが。

みなもと:はい、それがまあ敗因だったんですね(笑)。

アナウンサー:勝利に向けて様々なドタバタ劇を繰り広げる西軍の石田光成と東軍の徳川家康の動きを追う一方で、作者はですね、戦場にいながら戦わなかった西軍の毛利家、島津家、長宗我部家の大名に焦点を当てて語っていきます。

みなもと:はい。

アナウンサー:で、話は一気に幕末の動乱に移っていくわけなんですが、登場するのは坂本龍馬であったり、前野良沢であったり、平賀源内であったり、近藤勇等々、それこそ幕末の"風雲児たち"が出てくる、大変な長編になったと。言うことなんですが、今ちょっとお話になりましたけれど、何で幕末のことをお描きになりたいのに、関が原から話がスタートしなきゃいけなかったんですか?

みなもと:これはまぁ、そういうことをやりだした「私がそういうことをやった」と言って褒めてくださる人も多いんですけれども、これはまあ一つのパターンでもありますし、尊敬する司馬遼太郎先生も「幕末のすべてのお膳立ては関が原にある」ということは書かれてますし。

アナウンサー:それはどういう事なんですか?

みなもと:さっき言いましたとおり、幕末の最後の薩長同盟ができ、土佐やいろいろ徳川幕府を倒そうという時のスローガンが"リメンバー関が原"というか(笑)、関が原でのその敗者たちが、結局中心になって徳川幕府を倒していくという事なので、最初にまずどういうその、因縁があったのかと言うことを、関が原から描き起こすというのは、これは私がやりだしたのでも何でもなくて、さっき言いました司馬先生始め、いろいろな方が言われてたことなので、それはまぁその通りだなと思って、そこから書き出して、で後は江戸時代の話を単行本にしますと2〜3巻ですか、ぐらいで大体ペリーが来る以前の江戸時代はどんな人がいて、どういう出来事があったのかということを描いて、あとはそれこそ坂本龍馬とか、有名な新撰組とか、そういう話を描こうと思って江戸時代を描きはじめればいろんな出来事が次々と、これはまあ私が不勉強だから(笑)、不勉強なままにマンガ書き出したことがそもそも間違いなんですけれども、それを調べながら書いていくと、「ああこんな話が合ったのか、あんな話が」、「これは描いとかなきゃいけないな」みたいなことを、やり始めると、2年経っても、3年経っても、5年経っても全然幕末に行かないもんですから、編集もだんだん怒ってきますし、こちらも焦るんですけれども。

アナウンサー:一つの物語を書くのに、ずいぶんとその話題がたくさん出てきて。

みなもと:はい、そうです。

アナウンサー:拡がっていくわけです。

みなもと:だから100年余りの話なんですけれども、私達はその学校の教科書でね、中学でも高校でも学んだ頃には、江戸時代ってそんなにたくさんの話無いんですよ。林小平が『海国兵談』を書き、平賀源内が"エレキテル"を作り、前野良沢や杉田玄白が『解体新書』を著した。その次のページめくるとペリー来てるんですよね。

アナウンサー:あっ、学校の教科書。確かにその日本史のね、教科書を見るとそれぐらい、1ページぐらいしか。

みなもと:1ページか2ページぐらいでもうペリー来るから、「あ、じゃあこの話を描いて、2、3巻でもうペリーが来る話になるだろう」と思ったんですけれども。

アナウンサー:違った。

みなもと:本当にまったく違ってましたね。ですから学校で習ってきたのが却って災いして(笑)。

アナウンサー:じゃ初めはもっと、早いテンポで描かれるおつもりだったんですか。

みなもと:そうです。こんな10巻にも20巻にもなるようなつもりはまったくなかったんですよ。

アナウンサー:はあー。

みなもと:で、描き始めてみると落とせない話があまりにも多かったので。で、また、幕末の話というのは割合これまでにも描かれてきましたし…。

アナウンサー:そうですね。

みなもと:小説でもマンガでも学習マンガでもありましたけれども、割合その田沼時代前後かその後の話あたりが案外マンガになってないんですよね。

アナウンサー:なるほどねぇ。

みなもと:だから調べてそれを描く、描き甲斐もありましたし。

アナウンサー:まぁ次から次へと私、今お話を話をうかがってて、歴史の教科書が頭の中にこう思い起こされてきまして(笑)、ああ「そういう言葉・人物がいたなあ」という話がどんどん今、あのー走馬灯のように浮かんでくるんですが、1曲、曲を挟んでからまたお話をうかがおうと思います。えー武満徹さん作曲の映画音楽で、選んでいただいたんですけれども。

みなもと:はい。

アナウンサー:『切腹』って(笑)。

みなもと:こないだあの、ちょっと(笑)、切腹の話をマンガの中でちょっと入れましたもんですから、「何かリクエストを」と言われた時に、あの琵琶の音楽がいいなと思って、もう一度聞いてみたくなりました(笑)。

アナウンサー:ではそれを聞いていただきましょう。武満徹作曲の映画音楽から、『切腹』。


アナウンサー:はい、武満徹さんの作品の中から、『切腹』をお聞きいただきましたけれども、なかなかそのー。

みなもと:凄いでしょ?(笑)

アナウンサー:(笑)

みなもと:琵琶というのはエレキギターの無い時代に、凄いその、こういう音がね、出せるというのと、それからそのこの音楽を選んでしまった理由の一つはですね、この"ダダーン、ダダーン"という音が、マンガの擬音に影響を与えているんですよ。

アナウンサー:そういう、え?マンガの作品を描く上で?

みなもと:ええ、だから何かで驚いた時なんかに、バックに"ガガーン"なんて、ほらありましたでしょ?劇画の。

アナウンサー:ええ、ありますね。"ジャジャジャーン"っていう。

みなもと:あれのルーツたどっていくと、どうもこのあたりにあるんです。

アナウンサー:はあー。やっぱこういうふうな、その音楽を聞きながらイメージをふくらませつつ、作品の中に反映させていく。

みなもと:そういう先達の漫画家さんがおられたということですね。で、それがそういう文字で"ジャーン"とか"バーン"とかいう音をマンガの中に、太い文字で入れていって。

アナウンサー:みなもとさんご自身もそういうふうな?

みなもと:そうですね、そういうのを読んで育った世代ですから。

アナウンサー:ご自分の作品の中にも?

みなもと:半分ギャグですけれども入れますね。

アナウンサー:あー。

みなもと:ええ、"じゃーん"と言って登場人物がびっくりするようなギャグにはしてしまいますけども。

アナウンサー:その様々な登場人物が出てくるんですが、今私どもの放送席の後ろのほうに大きなスクリーンがありまして、そのスクリーンにこれは?

みなもと:あ、坂本龍馬ですね。

アナウンサー:坂本龍馬が、えーみなもとさんのキャラクターとして、坂本龍馬が映っておりますけれども、この坂本龍馬、私、あのー鼻を垂らしている坂本龍馬なんですよね。

みなもと:(笑)。

アナウンサー:坂本龍馬っていうのは、私のイメージからするととってもこう、かっこ良くてですね、男らしくて、えーとても鼻水垂らしてるっていうふうなイメージが無いんですが。なんでこういうふうに鼻水を垂らした人に?

みなもと:いや、ですが『竜馬が行く』を読んでもですね、あのー「袖口がもう鼻を擦って光ってた」というようなことが書いてありましたし、私らが子供のころ、鼻っ垂らしの坊や沢山いましたよね。

アナウンサー:ええ。今いませんけどね。

みなもと:今あんまりそういう、そうなんですよ、ここらへんこう鼻の下なんか、こうピカピカさせてるような子がいないのは寂しいとは思いますよね。

アナウンサー:今、鼻の下ピカピカってこうねえ、わからないと思いますよ。

みなもと:あーそうかもしれない。

アナウンサー:私なんか子供の時はねぇ。

みなもと:冬になるとね。

アナウンサー:服の袖で鼻をこう、すうっとこう、拭くってっていうことをやりましたから、どうしても服の袖がピカピカと光ってくるんですけれども。そういう子はいなくなりましたね。

みなもと:なんか読みましたら、竜馬の袖はもう「鼻でピカピカに光ってた」なんて書いてありましたから。

アナウンサー:そういう所からじゃあ、竜馬は、キャラクターは鼻水を垂らそうと。

みなもと:ええ、もうその時に決めました(笑)。

アナウンサー:こういうふうな歴史に登場する人達のキャラクターをね、決めるって言うのは、どういうところから決めてるんですか?

みなもと:もちろん肖像画から起こしますけれども、描いてるうちにだんだん変わってくるんですよね。最初に登場した時の顔が、1年、2年後、同じ顔にはなりません(笑)。1コマずつ変わっていくから、そんなにマンガ読んでる間は気にならないんですけれども、読み返してみるとずいぶん違う顔になってて、描いてる側が驚きます。自分の思うような顔にはなりません。

アナウンサー:なりませんか。

みなもと:ええ。

アナウンサー:あのー、ただね、その有名な人だとイメージしやすいですよね。その徳川家康だとか。

みなもと:徳川家康はもう、逆にあの顔でないと、読者の方も承知してくれないのかなと、思うぐらい、いわゆるでっぷりした狸親父のイメージがもう定着してますからねえ。

アナウンサー:たとえば、その教科書では名前だけは知ってるけれども、どうも知らないと、資料に出てくる名前というのはその人の性格まで書いてありませんから、たとえば、私が本を読んでて前野良沢とか杉田玄白なんて言いましたけれども。

みなもと:杉田玄白なんかは教科書によく出てきます。前野良沢なんかは…。

アナウンサー:あ、会場の方で前野良沢なんてご存知の方いらっしゃいますか?どんな人だと思われます?

みなもと:(苦笑)。

アナウンサー:すぐにわかりますか?あ、その女性の方にちょっと聞いてみましょうか。

女性来場者1:杉田玄白は知ってますけど、前野良沢は知らないですね。

アナウンサー:前野良沢はわからない?

女性来場者1:よくわからない。

アナウンサー:どんな人なのか。

女性来場者1:はい。

アナウンサー:もう一人隣の方は,わかります?

女性来場者2:わかりません、ごめんなさい。

アナウンサー:わからないですか(苦笑)。で、みなもとさんは、でもそういうふうな資料を、性格までわからないですから、その人たちを描くっていうのは、どういうふうな苦労がおありなんでしょう?

みなもと:もう一人一人を(苦笑)追っかけていくのが大変で、あの『風雲児たち』っていうのは、初めてその、群像で描いてみようと思ったわけですから。大概のドラマというのは主役がいるんですよね。ところがこの『風雲児たち』っていうドラマは"主役を決めない"っていう描き方から始まったんです。

アナウンサー:ほぉー。

みなもと:っていうのは、いろんな小説を読みますと、たとえば坂本龍馬が主役のドラマ・小説読みますと、竜馬がいれば明治維新はできたようであるし、NHKの『花神』だと、今度は大村益次郎がいれば明治維新はできたように見えるし、ある本では高杉晋作がいれば明治維新はやれたように書いてあるし、誰が本当に明治維新やったのかわかんなくて。で、主役を決めずに、みんなが「この時に何をしていたのか」、「この時に何をしていたのか」、「この時に何が起きたから、この人間は世に出てきたのか」ということを描きたくて、描き始めたのが『風雲児たち』なんです。

アナウンサー:その話はまた、音楽とニュースを挟んでまたおうかがいすることにいたします。えー、みなもと太郎さんにお話をうかがっています。


アナウンサー:"学びたいは終わらない"というテーマで、漫画家のみなもと太郎さんにお話をうかがっています。ニュースの前までにねえ…。

みなもと:そうです、前野良沢の話から入っていたのに、その話にならないで、また私の勝手な話になる。こういう脱線が私のマンガが長引いちゃった理由の一つでもあるんですけれども。だからその話を今、忘れないうちにやっておきたいと思いますけれども。杉田玄白の方の名前が有名であるのは、蘭学事始という本の中で、『ターヘルアナトミア』を訳した、『解体新書』の訳をした人間の名前に、杉田玄白、前野良沢、中川順庵か…。ほぼ3人でやったけれども、前野良沢という人が一番オランダ語に詳しくて、一生懸命調べたんだけれども、どういうわけか途中で前野良沢氏は、「この本に私の名前は一切入れないでくれ」ということを言ったんですね。で、それは表向きは、歴史に残ってる上では、こういう「蘭学とか自分の学問を、自分の名聞・名利・出世欲名誉欲のために自分の名前を上げるために使うことはしないと、自分の中に誓ったので、絶対に入れないでくれ」と、言われたので名前は出すことができないということを、杉田玄白が、正直に書いてるわけですけれども、どうもそれだけではなくて、前野良沢が自分のオランダ語の訳がまだ拙くて、「正しい訳になっていない。『ターヘルアナトミア』・『解体新書』の文章がなっていないので、それを世に出すのは自分の気持ちが許さない」という、らしくてどうも自分の名前を出したくないと言ったらしいんですね。で、そのことを杉田玄白は文章の中で匂わせて、彼のしっかりした気持ちとそれから、その自分のっていうのは、杉田玄白が「自分はいい加減な人間だから、この二人の絶妙のコンビネーションでこの本が出来上がったんだ」という、その後書きみたいなことが書いてあるんですよ。そういう事で前野良沢の名前は、割合杉田玄白ほどは知られていない。ということが、まあいろいろ調べてわかったんですけれども、そういうことを勉強しては、「あーそうなのか」と思いながら、作品に描いていくという、まあかなり泥縄な仕事をし続けているのです(笑)。

アナウンサー:そこの「いろいろ調べて」っていうところを聞きたいんですけれども、なかなかその資料もね、私達がこう学校で習うような文献だけではなかなかあそこまでの、細かなところまでは、今お話になったようなところまでは、描き切れないというふうに思うんですけれども、どうやって資料を集められるんですか?

みなもと:いろんな本を読むしかないんですけれどもね、ただその、描いているうちに今のようなエピソードを読みますと、「あっ前野良沢というのはずいぶんその、一本気な頑固なでも世渡りの下手な人なんだな」、というようなことを…。

アナウンサー:作品の中にもたびたびこう…。

みなもと:はい。

アナウンサー:杉田玄白が「前野さん早く出版しましょう、はやくこの本出しましょう」っていってるんだけれども、「いやいや訳がまだ整わないから駄目だ」と、そうすると杉田玄白が、「じゃあ絵だけでも、先に出したいと、『ターヘルアナトミア』の、『解体新書』の絵だけでも出したい」と…。

みなもと:そうでしたね。

アナウンサー:「それだけ、絵だけ先に出すんだったら、そらまあいいだろう」というところで承諾をして、でもまだ本編は出さないという。非常に我の強いところが…。

みなもと:あったんだろうと。で、そういうことを調べながら、次第次第に表情…顔そのもの造作というより、そういう話された時にどういう表情で受け答えするのかなっていうことを絵に描いていくうちにだんだん、そのキャラクターが決まってくるという。

アナウンサー:ええ。

みなもと:だからそういう意味では小説を書くというよりも、なんて言うか生々しいですね。描いていて、そういう思いはします。小説書いたわけじゃないから、そんなことはわからないんだけれども…。

アナウンサー:でも、小説は様々なイメージができますけれども、漫画家の方というのはある種ストーリーを決めたあとに、更にそれを自分のイメージを絵として表さなければ行けないという…。

みなもと:そうです。

アナウンサー:作業があるので、立体的にものを見なければいけないというところがあると思いますねえ。

みなもと:脚本を書いて、役者さんを集めて、演出をするような気持ちで、絵を描く作業に入るんですね。ですから、ストーリーを考えてる時と、絵を描いてる時ではやっぱりこちらのスタンスはなんか、脳内で変わってるような、一人二役をやってるような思いはします。

アナウンサー:はーなるほどねえ。

みなもと:ストーリーを描いてる時と、絵を描いてる時の自分はやっぱり別な部分で仕事してるなって気はしますね。

アナウンサー:あのーあれなんですって? 漫画家の方って言うのはいろいろストーリーを書き終わって、さあ終わったと。

みなもと:はい。

アナウンサー:で、打ち上げだって言って…。

みなもと:えーえー、小説書いてる方なんかは、これで飲みに行けるんだな、羨ましいなとも思うんですけどもね、漫画家はそこからいよいよ本番の仕事だ、「アシスタント集まってください」(笑)という仕事になりますんで、なかなか漫画家はいつもいつも机にへばりついてる…。

アナウンサー:そうですね(笑)。で、そういう漫画家に、みなもとさんはなぜなろうと思ったんですか?

みなもと:これはもう、どうしようもないんですねえ。別にそういう環境があったというんではなくて、自分でもわからないんですけれども、もう物心ついた時には、もうマンガは自分の中で一番好きなもんだったものですから。まだ昭和30年にもならないころですから、そんなマンガの本なんかなかったし、いまのようなマンガブームでもなかったから、雑誌の横についてる広告のようなマンガでも隅から隅まで読んでましたし、2〜3歳で平仮名覚えたのは、多分マンガが読みたい一心で覚えたんだろうな(笑)と、今にして思いますけどね。これはもうしょうがないです(笑)。

アナウンサー:もう好きで。もうしょうがないと。

みなもと:そうですね。大体私はウロウロと、その京都弁で言う"ちょか"と言うんですけれども、落ち着きのない子供だったんですけれども。親がもう困り果てると紙と鉛筆を与えておくとおとなしくなってたという話聞きますから。

アナウンサー:よく学校の教科書の横にずうっとマンガを描くって言う子がいますけど、そんなタイプですか。

みなもと:そうなんです。授業中ほとんど。そうですね、中学・高校ずっと先生の話は聞かずにマンガを描いていたという気が今しますねえ。悪い(笑)。

アナウンサー:私の小学校の時にもそういう子供が一人いましてねえ。

みなもと:ああ

アナウンサー:ずうっと描いててこう、「K君、K君、ちょっと見て」って、何だろうと思ったらこうノートの端のところでペラペラペラってやるんです。

みなもと:パラパラマンガ描くでしょ。みんなパラパラマンガ描くんですよ(笑)。

アナウンサー:するとこう動くんですよ。で「うまいね」って。だから授業中それやってたわけですよね、その彼はね。そういうお子さんだった?

みなもと:もうそれは、もうどの先生も皆、えー困り果てていましたね(笑)。だけど一人だけ先生の中でね、「ひょっとしてこの子は将来漫画家になるかもしれないし、その時に、学校の先生がマンガを描くなと描くなといったと、こういう番組で言われると困るから、怒らないことにしました」と、うちの親に(笑)。

アナウンサー:じゃあお父様もお母様も途中からはもうこの子は。

みなもと:諦めたんでしょうね。

アナウンサー:マンガで行けるんじゃないかと。

みなもと:いやーそれは、それはなかったと思いますよ。私自身がそういう自信は持てずに、まあ今日も持ってませんけれどもねえ。

アナウンサー:あ、そうですか。

みなもと:ええ。

アナウンサー:「どこで自信がつけられましたか?」って事をお訊ねしようと思ったんですけど。

みなもと:いやいや、これはもう、死ぬまで満足のいくものが描けるとは思えないし、だけど、とにかく「描きながら学び、学びながら描く」というつもりで、決して、「ああ自分はこれなら漫画家でやっていけるな」という時があったわけではないです。ただ、描きたくて描いて、それをなんとか今日までやってこれた。だけどあっと言う間ですよね。デビューして36年経ちました(笑)。

アナウンサー:さあ、ここで1曲、曲を挟んでから、さらにお話を続けたいと思います。次は『燃えよ剣のテーマ』。

みなもと:新撰組ですね。

アナウンサー:これは司馬遼太郎さんの原作の新撰組を描いたドラマ。

みなもと:そうですね。司馬遼太郎さんの新撰組のドラマは『新撰組血風録』と『燃えよ剣』と二つあるんですけれども、『燃えよ剣』はその2度目の作品ですね。ただ主役は皆同じです(笑)。栗塚旭、舟橋元、島田順二ですか。このトリオがヒットしたんですね。

アナウンサー:たいへん良く見てらっしゃるんですね。

みなもと:新撰組のイメージが定着したという。

アナウンサー:はい、それではその『燃えよ剣のテーマ』どうぞ。


アナウンサー:はい、『燃えよ剣のテーマ』をお聞きいただきました。お話を『風雲児たち』に戻したいと思うんですが、先程ですね…あっ後ろのほう、映像に今の新撰組の、これからお描きになると言うキャラクター達が映ってるんですが。

みなもと:これは『風雲児たち』を描くもう10年以上前に、私が初めて書いた時代劇がこの新撰組、『冗談新撰組』と言うんですけれども。これを少年マガジンで連載しまして、3週間連載なんですよ。いわゆる"短気集中連載"という奴ですか。

アナウンサー:このキャラクターもまたユニークですねえ。

みなもと:ええ(笑)。

アナウンサー:あの真ん中で大きな口開いてるのは、あれが。

みなもと:ええ、私の劇団の中では一番登場の多い"大口君"という名前しか与えてませんけれども、口の…。

アナウンサー:大きい。

みなもと:ええ。近藤勇は口が大きい。

アナウンサー:ですよね。

みなもと:ええ、昔から聞いてますから。近藤勇はこの人しかやれないなと思って。

アナウンサー:口が大きくって、近藤勇もかなりかっこ良いというふうにイメージはしているんですけれども。このみなもとさんの近藤勇は可愛いですね。

みなもと:いや、だけど、いわゆる"無骨者"というイメージはそんなに変えてない。あんまりその自分の作品でイメージは変えたいという思いはないんですよ。ええ、これまでにあるイメージに割合忠実にありたいという思いはあるんですけども、描いてるうちになんか変わってくるということは、なんか(笑)致し方ないな、と。

アナウンサー:そのとなりにあるヒラメのような顔してるのが。

みなもと:はい、沖田総司でございます。

アナウンサー:沖田総司ですよね。

みなもと:この作品で思いついた顔なんですけれども。

アナウンサー:沖田総司も本当はこう、ハンサムの二枚目だったというふうに。

みなもと:二枚目だったという記録は全然無いんですね。残念ながら(笑)。

アナウンサー:あ、無いんですか(笑)。

みなもと:青黒い顔をして、猫背で、えーヒラメのような顔だったという記録があるんで。

アナウンサー:そんなふうに。

みなもと:「じゃこんな顔かなー」と思って、描いたんですけれども。

アナウンサー:というふうな形でキャラクターが、こうどんどんどんどん決まっていくわけですね。

みなもと:そうですね。なにか引っ掛かりがあれば。ですから拳固が口に入るというなら、じゃ大きい口だろうとかね、袖が鼻で光ってるんだったら鼻っ垂らしだろうとか、何かちょっとヒントがあればキャラクターは生まれますね。

アナウンサー:今度この新撰組、来年ですねNHK大河ドラマでは『新撰組』なんですけれども、三谷幸喜さんの脚色で。

みなもと:そうですね。

アナウンサー:三谷さんが何かの本で書いてたんですけれども、この『冗談新撰組』をみなもとさんのこれを読んでですね、何かこう影響を受けたっていうふうにものを書いてるんですれども。

みなもと:あのーその通りで。っていうのは天下のA新聞に(笑)、三谷幸喜さんが、「小学校の時にこの『冗談新撰組』を読んだのが、新撰組というものを知った初めてだった」と。で、ここにあります『風雲児たち』も全巻読んでくれてまして、このあいだエッセイの中で、来年の大河ドラマを書く上に当たって、「どこまで『風雲児たち』に近づけるかが自分の課題だ」というような。まあ課題だとおっしゃってもずいぶん"過大評価"してくれたなと思って、私自身がびっくりしてるんですけれども。このあいだ、ある本の企画で、三谷さんと2〜3時間ずっと話いたしました。よく三谷さん、テレビなんかでは、ちょっとひねくれたものの(笑)発言されるんですけれども、私もちょっと大丈夫かなと心配だったんですけれども、普通のファンの方と同じ姿勢だったので、こっちがちょっと驚きました(笑)。

アナウンサー:その三谷さんがある本の中でね、書き物の中で、「歴史のストーリーの中で、非常に資料というものは無味乾燥なものが多い。その無味乾燥なデータの中で、どうやって魅力的に描くことができるのかということを、みなもとさんにうかがいたい」というようなことを書いているんですれども。どういうふうになさってたんですか?

みなもと:それはさっき話したとおり、「絵に描いているうちに、だんだんだんだんその人のキャラクターがつかめてくるのだよ」みたいな言い方はしたと思います。でも結局、練り直していくということなんでしょうね。

アナウンサー:練り直すというのは?

みなもと:ですから、その、最初に思いついたものと、作品になっていく間に、ずいぶん違うものになってしまうんだなって事が、描いてて気付きましたですね。

アナウンサー:やっぱりみなもとさんでも、こう冒頭にも話が合ったみたいにですね、こう調べていくうちに歴史をどんどん学びとっていくものがある。

みなもと:どんどん変わりますし、深くもなっていくんだろうなと思います。自分の勘違いだけなのかも知れないのだけれども、でも案外、後で知った新資料が、自分が考えていて描いて、自信のなかったエピソードなんかが、後で調べてみるとその通りのことがあって、「あ、よかったな」と(笑)。ずいぶん無責任な話なんですけれども。

アナウンサー:そうすると『風雲児たち』を読ませてもらっても、大変こう歴史の勉強にもね、私、なるなあというふうに思って見てるんですけれども。

みなもと:私自信はそういうつもりは、最初はなかったんですけれどもねえ。

アナウンサー:史実に忠実に。

みなもと:私自身も歴史を知らなかったから、自分で勉強しながら、なんでもかんでも歴史のことに詳しくて、で、マンガに描いてやろうという姿勢ではまったくないんですよ。歴史のことはさっきも言いましたとおり、まさか江戸時代がこんなにいろいろあるとは思わなかったように、知らないから調べる、調べると面白い、面白いからその気持ちが新鮮なうちに作品にして、自分がどれほどその、このエピソードで、受けた印象がまだ冷めないうちにね、読者の方にお召し上がりいただくというのが、一番理想的だなという気はいたします。ですから、自分のほうでいろんなことを知っていて、それを悪くひねくり回して、こうやってその人を感動させてやろうとか、そういう思い上がった気持ちはやっぱり持たないほうが良いんだな、とは感じました。自分が感動したことを、どれだけ読者の方に伝えることができるかということのほうが大事なんだろうなと思いました。

アナウンサー:あのー、読んでいきますと田沼意次のシーンがありますけれども。

みなもと:あ、田沼。

アナウンサー:あそこなどは、私は学校で習ったのは田沼意次というのは悪い事をした政治家で…。

みなもと:そうです。

アナウンサー:どんどんどんどん賄賂などを取ったと。で、ところが、みなもとさんの小説を見てみますとね。

みなもと:小説では(笑)。

アナウンサー:(笑)マンガを見ていますと田沼意次は決してそうではなくて、もっとその「世の中を賑やかにしたいと、元気にしたい」っていうつもりでやったんだというふうに描いてありますけれども、それはちょっと違う?

みなもと:それはもちろん資料のせいなんですれども、その田沼意次、善人であるということを割合初期から訴えられていた方は、いわゆるプロの…大学教授とか歴史家ではなくて、地元のアマチュア研究家だったんですね。で、その方の本に、清水一郎さんという方ですけれども、その方の本に出会えたのは私にとってラッキーだったと思います。それまでの田沼像とは全く違う田沼だったし、それがそれ以降の江戸時代を調べてみても、田沼のほうが正しい考え方をしていたんだということは、裏付けられるということも、それを読んでわかってきましたし。ただやっぱりその方が、何の権威もない地元の研究家だったので、最初はずいぶん長い間、認められるまで時間はかかったようですね。

アナウンサー:あーなるほどね。そういうふうにやって。

みなもと:今になってずいぶん、それから新事実がたくさん出たんでしょうね。

アナウンサー:なるほどねえ。

みなもと:もう今はそんなに「田沼意次=賄賂政治・悪」という教科書も減ってくるんじゃないですか。

アナウンサー:どんどんどんどん、そうやって変わってくると。まあ『風雲児たち』もおそらくこれから描かれていくうちに、また新しい資料も出てきて変わってくると思うんですけれども。

みなもと:そうですね。

アナウンサー:これからいよいよ本番に向かっていくわけですけれども、『風雲児たち』はどういうふうに、この後描いていかれるというふうに考えていらっしゃいますか?

みなもと:結局ねえ、一番そのまあ、三谷幸喜氏もよく似たこと言われてるんですけれども、三谷氏が一番おもしろかったのは、生没辞典とかいうのがあるんだそうなんですよ。この年には誰が生まれて誰が死んだか、というその名前と年齢しか書いてない様な本があって、それが三谷さんはなんか座右の書になったと。私は年表が一番参考資料になったんですね。

アナウンサー:そういうふうな年表を参考にしつつ。

みなもと:そうですね。結局小説なんかだと、割合自分で都合良く、年代が変わったりもするんですよ。だけどその、案外因果関係見ていくと、明らかに年表を読んでいくほうが、「あっ、この直前にこの事件があったから、この話が大事なことだっんだ」みたいなことが、一番役に立つのは年表でしたねえ。

アナウンサー:というふうなことで、あのーさらにこの後『風雲児たち』を期待しておりますので。

みなもと:ありがとうございます。

アナウンサー:どうぞご活躍ください。

みなもと:いつまで続くかわからないですけれども、がんばります。

アナウンサー:どうもありがとうございました。

みなもと:どうも失礼いたしました。

アナウンサー:今日のゲストは、漫画家みなもと太郎さんにお話をうかがいました。


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